地域の中核病院としてより質の高い血液疾患診療を目指す
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エビデンスの確立を目指し臨床研究に積極的に取り組む 森下 昭和病院における血液内科の長年の取り組みを基盤に、20年ほど前からは臨床研究にも積極的に取り組んできました。その成果がまとまりつつありますので、河野先生からご紹介ください。 ◆名古屋BMTグループにおける共同研究 河野 当院の臨床研究への取り組みは、名古屋BMTグループとの共同研究という形でスタートしました。 名古屋BMTグループは、1974年に名古屋骨髄移植研究会として発足し、名古屋大学や名古屋第一赤十字病院を中心に、わが国の造血幹細胞移植の草分け的存在として活動を始めています。昭和病院は、森下先生が血液内科部長として赴任された1990年に同グループに参加しています。1999年には森下先生が名古屋BMTグループの代表に就任し、それを機に症例登録の事務局が当院に置かれ、データベースを管理することになりました。森下先生のもと「臨床試験遂行のための機構づくり」を目標とする研究活動がスタートしたのです。 わが国では、造血幹細胞移植領域における臨床研究がなかなか成熟せず、特に多施設共同研究を前方視的に計画・実施するには至りませんでした。欧米のように巨大な移植センターをもたないわが国で臨床的なエビデンスを示すには、多施設共同試験の実施が不可欠です。そうした状況を考慮すれば、年間200例以上の成人造血幹細胞移植を施行している名古屋BMTグループにおいて臨床研究を行うことは、いわば責務でもあったのです。 ◆低用量シクロスポリンによるGVHD予防効果を検証 2000年4月には、当院が中心となって「HLA一致同胞間骨髄移植における低用量シクロスポリン+短期メトトレキサートを用いたGVHD予防法の第U相試験」を計画し、当院を含む名古屋BMTグループの数施設と、東京都立駒込病院との多施設共同試験として開始しました。わが国ではGVHDの発症頻度と重症度が低いことから、GVHD予防に用いるシクロスポリンを減量することが、重症GVHDを増加させることなく再発と治療関連毒性を抑制し、治療成績を向上させることを期待して行ったものです。 シクロスポリン少量(1.5mg)投与群21例と通常量(3mg)投与群22例の比較において、グレード1〜4の急性GVHD累積発症率にほとんど差はみられませんでした。しかしグレード2〜4では、有意差はなかったものの、少量投与群でやや発症率が高いという結果でした(図1)。グレード3以上の重症例はほとんどなかったことから、シクロスポリンの減量によりグレード2の発症頻度が増加したものと思われました。再発率、生存率については、症例数が少なく、観察期間も短いことから明確な結論は出ていません。 [図1] ![]() この成果は、2002年の日本血液学会・日本臨床血液学会合同総会において報告し、後に英文論文(Kohno A, et al: Int J Hematol 84(1): 83-89, 2006)としても発表しました。小規模な研究ではありましたが、名古屋BMTグループだけでなく、他地域の施設とも協力して前方向視的臨床試験を行えたという点で、非常に大きな一歩でした。 ◆前処置におけるブスルファンのtarget dose adjustmentをめぐる検討 次に私たちは、「造血幹細胞移植の前治療における経口大量ブスルファンの体内動態の解析」という研究(河野彰夫、他:臨床血液 44(8):224、2003)を行いました。欧米で研究が進むブスルファンの体内動態解析に基づく投与量の個別化、いわゆる“ターゲティング”は、ブスルファンをより安全に用いるために重要なテーマであり、日本にも導入すべきだと考えたのです。 9例を対象に移植前処置におけるブスルファンの経時的血中濃度を測定し体内動態を解析したところ、ブスルファン初回内服後のAUC(血中濃度測定下面積)に最大約5倍の患者間差を認めました。同じ用量のブスルファンを処方し同じように治療しているつもりでも、実際には約5倍もの濃度差があるということです。毒性の出現を最小限に食い止めるには、日本人においても個別の用量調節を図るtargeted dose adjustmentの必要性が示唆されました。 そこで、個々の患者さんの血中濃度に応じて用量の調節を図るためのパイロットスタディを計画しました。ブスルファンの初回内服後の血中濃度解析により推定されるCss(定常状態血中濃度)から至適投与量を算出して、途中から投与量を調節するtargeted dose adjustmentのシステムを考案しました(図2)。Cssの目標値を800〜900μg/Lとし、それより高ければ減量、低ければ増量することで用量調整を行いましたが、パイロットスタディの6例中、ブスルファンの初回内服後にCssが目標範囲内(800〜900μg/L)だったのは1例のみで、5例で用量調節(減量4例、増量1例)が必要でした。1回目の内服後に経時的に採血した検体を北里大学に送り、翌日解析された結果がフィードバックされるのを待って16回中の7回目の内服より用量調節を行うという方法を用いましたが、私たちのパイロットスタディにより、この方法でのブスルファンのターゲティングの実施の可能性を示すことができましたので、次に私たちはこのシステムによるブスルファンの用量調節の有用性を評価するために、前方向視的な第U相試験を計画しました。この研究は名古屋BMTグループの枠を越えて、全国規模の多施設共同研究として実施されました。 [図2] ![]() 非常に小規模なパイロット研究から、全国規模の多施設共同研究に発展することができたのは、私たちにとって非常に貴重な経験となりました。 ◆破砕赤血球の臨床的意義 当院ではまた、独自に移植症例データをまとめて解析した後方視的研究にも取り組んでいます(島田和之、ほか:造血幹細胞移植における破砕赤血球検査の有用性、第68回日本血液学会総会・第48回日本臨床血液学会総会合同開催(福岡)、2006年10月7日)。移植後の経過において末梢血中に出現する破砕赤血球の臨床的意義、とりわけ重症合併症である移植関連微小血管障害(transplantation associated microangiopathy;TAM)の診断における有用性に関する研究では、①13‰以上の破砕赤血球の出現はグレード2以上の急性GVHDおよびTAM発症と有意に相関しており、必ずしもTAM特異的ではないが、サロゲートマーカーとして有用である、②TAMの早期診断としての有用性は低いが、LDH値の急上昇を伴う場合はTAMが強く示唆されることが示されました。 以上、ご紹介したのは代表的な事例ですが、主体的に臨床試験に取り組む姿勢を重視しながら造血幹細胞移植に取り組んでいます。個々の患者さんの治療方針を決定するためのエビデンスを自分たちでつくり出すために、また自分たちの治療を客観的に評価して今後の診療に活かすためにも、臨床研究によるデータを公表していくことが重要だと考えています。また今後は全国各地域の研究グループとの協力関係を強化しながら、さまざまな研究に取り組む努力を続けていくつもりです。 森下 当院では、移植患者さんの8割以上が臨床研究に参加していただいているのも大きな特徴です。今後もこの方針は貫きたいと考えています。 |
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